「交通事故にあったら、痛みがなくても必ず病院に行くべき」とよく言われますが、それはなぜかご存知でしょうか。
それは、交通事故発生時に症状が出ていなくとも、後日症状が出ることは稀ではなく、場合によっては死亡してしまったり大きな後遺症が残るケースが多々あるためです。
ここでは交通事故に遭った時に気づかない可能性がある見えない怪我とはどのようなケースがあるのか、交通事故の被害に遭った人が注意すべきポイントを解説します。

交通事故で気づかない「見えない怪我」とは
交通事故の被害に遭った人が、事故当時は怪我を負っていると気づかず、後日後遺症や痛みが出て気づく「見えない怪我」には、下記のようなケースがあります。各ケースごとの怪我の症状を解説します。
- 頚椎捻挫(むちうち)のケース
- 脳内出血のケース
- 内臓損傷のケース
頚椎捻挫(むちうち)のケース

交通事故の怪我としても多く、また事故後すぐに症状に気づかないことも多い怪我が「むちうち」です。
ただし、むちうちという診断名はないため、頚椎捻挫や頚部挫傷、外傷性頸部症候群など、医師の診断次第で傷病名がつけられます。交通事故でむちうちになってしまう人が多い理由は、車内で座っている状態で事故に遭った時に、受けた衝撃によって頸部に負担がかかって怪我を負いやすいからです。「むちうち」の由来は、前方または後方からの衝撃を受けた時に、首が鞭を打つように前後にしなることから付けられています。
成人の頭の重さは体重の約10%程度あると言われており、一般的には4~6kg程度の重さを首・肩・背中・背骨で支えている状態です。衝突事故が起こった時は、衝撃によって胴体は前方へ押し出されますが、頭部は重みで後方へしなります。その後、反動があって頭部が前方にもしなります。頭部を支える首や肩などには、その際大きな負担がかかるため、むちうちになるのです。
むちうちになると、首の周囲の筋肉や血管、椎間板、靭帯などに損傷を受けます。初期症状としては耳鳴りが多いと言われてて、その後時間の経過と共に現れる症状としては、頸部痛、頭痛、吐き気、めまい、肩こり、指や肘の痺れ、上半身のだるさなどが増してくるようです。
むちうちの症状は、事故後すぐに出ることの方が少なくなっています。事故で受傷してから、6時間以内に痛みを自覚する人は60%程度しかおらず、24時間以内で93%、72時間以内でやっと100%の人が痛みを自覚するといったレベルです。また、自覚症状として肩こりなど普段の生活から発症する痛みもあるため本人は気付きにくく、時間の経過と共に家族が事故の後遺症に気付いたケースもあります。
このようにむちうちは発症までに時間がかかることも多いため、治療が遅れてしまう上に、示談交渉で既に合意してしまった後にわかった場合は、治療費が補償されない可能性があります。逆に、事故後早めに病院で見てもらっていれば発症前にわかる可能性もあり、早期に治療に取り掛かれる上に示談交渉の際に治療費の上乗せもできます。これが「交通事故にあったら、痛みがなくても病院に行け」と言われる理由です。
脳挫傷・脳出血のケース
事故後の発覚が遅れてしまい後遺症が残ることも多く、恐ろしい怪我として「脳挫傷、脳出血」のケースがあります。
脳挫傷は、事故の衝撃で強い衝撃を受けて脳そのものが損傷した状態のことです。直接衝撃を受けた側の脳だけでなく、反対側の脳にも損傷が出る場合があります。脳出血は、事故で強い衝撃を受けたことで脳内の血管が破裂し、脳内に血液が漏れて血腫ができてしまった状態のことです。
脳内の血管・筋肉・膜には痛覚がありますが、脳そのものには痛覚がなく、脳の損傷の仕方次第では事故後すぐに頭部に痛みを感じない場合もあるため、発覚が遅れてしまうことがあります。脳出血の場合、気付かない間に脳内で出血が起こっていて時間経過と共に血が溜まり、血管や筋肉を圧迫するようになって初めて自覚症状が出ます。時間経過で出てくる症状としては、激しい頭痛や吐き気、片手・片足の麻痺や痺れ、ろれつが回らなくなる(言語障害)、めまい、脱力感、視野が欠けたり物が二重に見えるなどがあります。
事故後にすぐ(2~3日以内)、MRI検査で拡散強調画像(DWI)撮影をしてもらうことで、脳の小さな損傷を発見できる場合があります。早期で後遺症を発見できることで、今後のリスクを減らすことができるかもしれません。頭部を打ったことが明確な場合は脳内で出血している可能性もありますので、自覚症状がなくとも脳神経外科でCTやMRI検査を受ける方が良いでしょう。
物損事故によって運転者が衝突事故を起こした場合、運転者本人が任意保険に未加入の場合は怪我の診療費用も自己負担になります。MRI検査を受けるとなると自己負担費用が高額にかかる可能性もありますので、任意保険に加入しておくことをおすすめします。また、もしも任意保険未加入でMRI検査を受けることになった場合は、健康保険の適用は可能ですので、療費3割負担となり、5,000円~10,000円程度の検査費用がかかります。
内臓損傷のケース
むちうちや脳出血の他に、事故の衝撃によって内臓を大きく損傷しているケースがあります。内臓の損傷は外見上では判断できず、事故による興奮で分泌されたアドレナリンによって痛みも感じにくくなっているため、事故直後は負傷者本人が「大丈夫」と言っていても、実際には大丈夫でないことがあります。
「特に痛みがなく歩ける状態だったので徒歩で通院したが、実は内臓に大きなダメージを受けており、病院で診察を受ける前に突然倒れ、そのまま帰らぬ人となった」というようなケースがたまにあるそうです。人身事故の場合、外見上は大丈夫そうに見えても救急車を呼んで病院に行くべきです。
交通事故に遭った後の注意点

交通事故に遭った時は、見えない怪我を負っている可能性がありますので、まずは病院へいきましょう。強く体や頭部を打っている場合は、本人は痛みに気づいていなくても、体の中で損傷を受けている可能性がありますので救急車を呼んでもらいましょう。
通院について
事故後の通院については、基本的には整形外科を受診しましょう。担当医に事故にあった旨を伝え、どこを打ったかなど覚えている範囲で詳細に伝えてください。むちうちの治療などで整骨院へ通院しようと考える方も多いかもしれませんが、保険会社が正式な治療と認めないケースも多いため、まずは整形外科を受診することをおすすめします。(手足の痺れなど、症状によっては神経内科を受診しましょう)
事故に対する子供の心理
通学中に交通事故に遭ってしまった場合、過失の有無に関わらず怒られてしまうのではないかと考えてしまい、事故にあった事実を保護者に隠そうとする子供は多いそうです。そのため、日頃から交通ルールを守ることだけでなく、「万が一事故にあった時は、怒らないから痛くなくてもちゃんと報告するように」と教えておきましょう。
また、子供の様子が何かおかしいと感じたら、隠し事をされないよう優しいトーンで何があったのか確認しましょう。怒るつもりがなくても必死な雰囲気で問い詰めると、怒られるのではないかと子供が勘違いするかもしれません。
まとめ
事故は事故でも、駐車場で停車中に他の車に側面を擦られた場合や、徐行運転で壁や他の車とすれ違った時に擦ったときなどは、ほとんど衝撃がないので通院する必要はないと思われますが、シートベルトやエアバッグが作動するような事故の場合は、首(頚椎など)に大きな負荷がかかっている可能性が高く、事故後すぐに傷みが出ていなくても必ず通院するようにしておきましょう。
また、車と人が接触するような事故の場合は、必ず被害者は通院して検査を受けましょう。車の運転者側だったときは、被害者が断ったとしても通院を促しましょう。その時の怪我だけでなく、発見が早いほど残る後遺症についても変わってきます。「痛みも何もないのに通院するだなんて大げさだ」などと、無知から心無いことを言う人もいますが、負傷に気付かないまま放置してしまい、何らかの後遺症が残ったり、最悪の場合死亡に至るケースもあります。
「交通事故にあったら、傷みがなくても必ず病院へ」を守りましょう!