交通事故の損害賠償金は、加害者の自賠責保険から支払われることがほとんどですが、自賠責保険の補償は無制限ではなく、支払い限度額が決まっています。
こちらでは、自賠責保険の限度額がいくらなのかや限度額を超える損害賠償金が必要な場合の対処法、損害賠償金の請求方法などについて詳しく解説していきます。
自賠責保険とは?
自賠責保険とは、原動機付自転車を含む全ての車に加入が義務付けられている強制保険のことです。自賠責保険に加入していない場合は、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科され、免許停止処分に相当する違反点数6点が加算されます。
任意保険との違い
自賠責保険は法律で加入が義務付けられているのに対し、任意保険は名前のとおり加入が任意の保険であり、自賠責保険よりも補償の限度額が大きく、補償の範囲が広いという特徴があります。また、自賠責保険の補償内容や限度額、保険料はどの保険会社でも同じなのに対し、任意保険は補償内容や限度額、保険料などが保険会社やプランによって異なります。
補償の範囲
自賠責保険の加入が義務付けられているのは、交通事故の被害者が最低限の補償を受けられるようにするためです。そのため、自賠責保険の補償範囲は人が負った損害のみとなっており、車やバイクなどの物損は補償の対象になりません。自賠責保険の対人補償の範囲は、以下の3つのケースに分けられています。
- 被害者が怪我を負ったとき
- 被害者が後遺障害を負ったとき
- 被害者が死亡したとき
自賠責保険の限度額
自賠責保険の補償額は無制限ではなく、支払い限度額が決まっています。それぞれのケースごとの限度額について詳しく見ていきましょう。
怪我に対する損害賠償限度額は120万円
交通事故により被害者が怪我を負った場合、自賠責保険の補償限度額は被害者1人につき120万円までと定められています。自賠責保険における怪我に対する損害賠償金は、治療費や入院に必要な交通費などを補償する「治療関係費」、怪我によって仕事を休んだことで減少した収入を補う「休業損害」、交通事故証明書などの必要書類を発行するのにかかる「文書料」、精神的・肉体的な苦痛に対する補償である「慰謝料」の4項目に分けられます。
後遺障害に対する損害賠償限度額は4,000万円
後遺症障害分の損害賠償金は、後遺症に対して「後遺症障害等級」が認定された場合に請求できるもので、後遺症が残ったことで今後も生じる精神的苦痛に対する補償である「後遺症障害慰謝料」と、後遺症により労働能力が低下し、減ってしまう生涯収入に対する補償である「後遺症障害逸失利益」があります。
後遺症障害等級とは、後遺症の症状や程度に応じて認定される等級のことで、障害の重さに合わせて14段階の等級が定められています。自賠責保険では、この後遺障害の等級ごとに慰謝料を含む自賠責保険の限度額を設定しており、「介護を要する後遺障害等級第1級」で常時介護が必要であると認定された場合は、「後遺症障害慰謝料」と「後遺症障害逸失利益」を合わせて限度額である4,000万円が補償されます。
死亡に対する損害賠償限度額は3,000万円
被害者が死亡した場合、事故で死亡させられたことによる精神的苦痛に対する「死亡慰謝料」、被害者が得られるはずであった生涯年収に対する補償である「死亡逸失利益」、亡くなった被害者の葬儀にかかる「葬祭関係費」が自賠責保険によって補償され、その限度額は3,000万円となります。死亡事故の場合、被害者の代わりに誰が損害賠償を請求をするのか、被害者本人の分の賠償金はどう分配するのかなどについて、考えておく必要があります。
被害者の過失が10割の場合は補償がない
自賠責保険には交通事故の被害者に7割以上の過失がある場合、被害者の過失割合に従い、定められた減額割合に基づいて、自賠責保険の保険金を減額する「自賠責保険の重過失減額」という制度があります。この制度では、被害者の過失割合が10割の場合は免責となり、自賠責保険による補償を受けられなくなることが定められています。
損害賠償金を請求する方法
交通事故により損害を受け、損害賠償金を請求する場合、どのような方法があるのでしょうか。それぞれの特徴を把握しておき、自分に合った方法を選ぶようにしましょう。
加害者請求
加害者請求とは、交通事故の加害者が被害者に損害賠償金を支払った後、加害者が自分の加入している自賠責保険会社に対して支払った賠償金を請求することで、支払った全額、またはその一部分の保険金を受け取ることができるというものです。
加害者が任意保険に加入している場合は、任意保険会社が一括払いという制度を利用することがほとんどです。一括払いとは、自賠責保険による補償分と、自賠責保険の限度額を超え、任意保険で補償する分を合わせた損害賠償金を被害者に支払い、後から任意保険会社と自賠責保険会社との間で清算を行うことです。この場合、被害者は自賠責保険会社に書類を提出する必要はありません。ただし、加害者請求には時効があり、被害者に損害賠償金を支払ってから3年以内に、自賠責保険会社に対して保険金の請求をしなければならないため注意しましょう。
被害者請求
被害者請求とは、交通事故の被害者が加害者側の自賠責保険会社に対し、損害賠償金を直接請求することです。被害者請求を行うと、加害者側との示談が成立する前であっても、被害者が請求したいタイミングで損害賠償金を受け取ることができます。加害者側の自賠責保険会社に書類を提出することで損害額の調査や計算が行われ、請求から約1か月程度で損害賠償金が支払われることになるため、加害者が損害賠償金の支払いを拒絶している場合や、任意保険会社との交渉が難航している場合などに利用することができます。ただし、事故証明書や支払い請求書などの書類を提出する必要があり、被害者の負担も大きくなります。
自賠責保険の限度額では足りない場合
事故による損害が大きく、自賠責保険の限度額分だけでは十分な補償を受けられない場合、相手方の任意保険による補償を受けることになります。しかし、全ドライバーのうち任意保険に加入しているのは全体の約83%で、残りの17%は保険に加入していないとされています。自賠責保険の限度額分を超える補償が必要にもかかわらず、相手方が任意保険に加入していない場合、どうすればいいのでしょうか。
相手に直接請求する
加害者が任意保険に加入していない場合は、相手が加入している自賠責保険に対して請求を行い、自賠責保険の限度額を超えた分は、加害者自身に直接請求するようにしましょう。ただし、加害者が資力に乏しい場合、十分な損害賠償金を受け取れない可能性が高いです。この場合は、加害者が勤務中に起こした事故であれば雇用主、加害者が未成年であれば保護者など、支払い能力が最も高い人に対して慰謝料を請求することになりますが、当事者同士の交渉はトラブルに発展しやすいため、代理人として弁護士などを立てることをおすすめします。
自分の任意保険を利用する
自賠責保険の限度額分を超える補償が必要にもかかわらず、事故の加害者が任意保険に加入していない場合は、自身が加入している任意保険を利用することで、補償を受けることができます。こういったケースで主に使用できる保険は、事故によって怪我を負った場合、過失の割合に関係なく損害分の保険金が支払われる「人身傷害保険」、車に搭乗している全員の怪我を補償する「搭乗者傷害保険」、事故の相手方が無保険だった場合や、補償内容が不十分な場合に保険金を受け取ることができる「無保険車傷害保険」などで、自動車保険の特約として契約されることがほとんどです。また、これらの保険を利用した場合、示談交渉の終了を待たずに保険金が支払われるため、怪我の治療費が必要となる場合などに役立ちます。
労災保険を利用する
交通事故に遭ったのが通勤中や勤務中であった場合、労災保険を利用することで、治療費や休業給付金などを受け取ることができます。労災保険は会社や事業主が負担している保険であるため、示談交渉を行わなくても利用することができ、速やかに保険金を受け取ることができます。また、自賠責保険とは異なり、損害分の限度額もないため、費用を気にせず治療を受けることができます。さらに、労災指定病院で治療を受けた場合は、病院が治療費の請求まで行ってくれるため、治療費の支払いや立て替えを行う必要もありません。
まとめ
自賠責保険は、怪我に対する損害賠償限度額が120万円、後遺障害に対する損害賠償限度額が4,000万円、死亡に対する損害賠償限度額が3,000万円と定められています。自賠責保険の限度額を超える補償が必要な場合は、まず加害者の任意保険に請求を行いましょう。加害者が任意保険に加入していない場合でも損害賠償金を請求する方法はあるため、自分の状況にあった適切な方法を選ぶようにしましょう。
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